なもで踊絵馬 細見
新賀・市杵島神社 「雨乞奉納」絵馬
概要
この「雨乞奉納絵馬」は奈良県橿原市新賀町の市杵島神社にある割拝殿に掛けられている。
絵馬には1880(明治13)年8月の奉納と記されており、描かれている内容から雨乞い成就による奉納と考えられる。(雨乞いの立願時も考えられるが、立願時の絵馬奉納は例が少ない。)
絵馬は西方を上にして東方から新賀村全体を俯瞰し、中心部に市杵島神社、周囲に民家、環濠、田畑、左側(南方)に米川(よねかわ)、そして人物は村内を踊り歩く人々と、農作業の人々を描いている。
さらに細部を見ると、御神灯の高張提燈があげられた神社では神官の神事、境内の割拝殿に集う人々、神社周辺で大太鼓を打つ人や、道々で榊に紙垂を付けた幣を両手で拝むように持って踊り歩く人々、さらに周辺の田畑では農作業に励む多くの人々が描かれている。
この内容から雨乞い祈願が叶い、神に感謝する「なもで踊り」(南無天踊り、諌め踊り、勇め踊り、太鼓踊りとも)を奉納していると推測される。「なもで踊り」は現在奈良ではほとんど見られないが、それでも明日香村稲淵地区と安堵町の飽波神社が復活をさせている。
他の「なもで踊り」が描かれた絵馬では、神社内外で、多くの鳴り物を使い、装束を着け整然と群舞する人々を描いているものが多いが、この絵馬では楽器は大太鼓のみ、踊る人は普段の着物姿で、神社の外の道で三々五々踊り歩いている。さらに雨乞祈願が叶い、雨水に恵まれて農作業に精を出す農民の様々な姿が多く描かれ、満々と水を湛えて流れる米川の情景も描写されているのが特徴的である。また環濠も描かれていてその面でも珍しく貴重な絵馬である。(なお絵馬の採寸はしていない)
|